２．QRSプラグ（バトグサ）

BとTのCP30題 by朝乃耀様
お借りしました！
SAC後・2ndGIG前
腐向け＆若干痛々しいので注意。

＝２．QRSプラグ＝






きっかけはあまりに些細だった。
多分傷口を拭ってやるのに義体の出力を間違えただとか、生身の頚動脈を
感じていたいだとか。
多分言い出した側も言われた側も忘れているだろう。

もう２年になる。

見開いたアンバーブラウンの虹彩が強制的に絞られて、所々薄鳶に色素が
抜けているのを見詰める。その位置までも覚えてしまった。
もっとも潜められた眉と嘔吐するように薄く開いた唇は、未だ痙攣が取れないが。

感覚の擬似共有。
プラグドされたままのインターフェイスは体温と工学発熱が混合されて、境を失い
双方に酷い倒錯感を齎した。
襟足に人工的に開けられた穴をゆっくりと撫でると、うぁ、と宙に浮く呻き声。

片手で首を絞める。

この男が数秒に一度ごく浅い呼吸を確保できる程度の力加減。
限りなく黒に近いダークアッシュのネクタイを緩めて、自分の鎖骨に爪を立てるのも
いつもの癖だ。あぁ、嫁さんには見せらんねぇなと電脳の隅で一人ごつ。
無理矢理皮膚を貫通させた所と予め成形された所で繋がって、空いた左手で
生理的な涙が膨れる目元を拭う。
ひくり、時々しなる背中と焼ける息はこれが同意の上での行為だからだ。
まるで優しくない、文字通り息の潰えるような、接続。
我ながら何て悪趣味なんだと喉の奥で自嘲する。

力の誇示、などという生易しいもんではない。
離れていかないように。それでもゴーストが囁けば黄色いスポーツカーの
助手席から躊躇無く抜け出して、背を追う時間すら与えないけれど。
･･･そう、いつか姿を消したひとのように。
急遽引き抜かれた元刑事に「少佐」が一体何を教えたのか、俺には知る由も無い。
知ろうとも思わない。けれど緩慢に、だが確実に、類似性を露にした。
生身の癖に。いざという時は己が傷つく事を恐れもせずに手段を講じる。

なぁ、新入り。お前のここ、俺があと１.７キロ加えたら折れちまうんだぜ。

初めて首を絞めた時、そう言った事だけは憶えている。

解ってるよそれくらい。
けれどあんたは、絶対に俺を傷付けない。

どうしてそう言い切れる。

全く同じやり取りを、繰り返す。何度も。有線で、電通で、声帯で。
そんな目をしないでくれ、頼むから。そうしていつも同じ感覚に打ちのめされる。

「おれのゴーストが、あんたのゴーストに、そう、言ってる」

離れていかないように。お前のゴーストの器が唯の肉体なんだと思い知らせるために、
･･･否、本当は解っている。言葉を弄しても全ては詭弁に過ぎないんだと。

魂の邂逅。自意識の逢瀬。目に見えないものを鷲掴みされて、もう逃げられない。

「･･･手放せないモンが、増えちまったよ」

ふ、と右手を緩める。やにわ咳き込んで数刻の後、肉声で発せられたいつもと異なる
台詞に、え、と冷静さを取り戻したアンバーブラウンが義眼を直視した。

お前だけは、往かせやしない。だから力で束縛する、感覚ごと共有する。
有機と無機の境目を剥ぎ取った酷く倒錯的なやり方で、二人して暗渠にダイブする。
お前は決して俺だけのものになりやしないんだから。
俺は俺の領域で、お前を俺だけのものにしたっていいだろ、なぁ？

「物好きだな、あんた」

今更だけどさ。軽口を叩きながらのこんな秘かな微笑は、彼女だって見せなかった。

独占欲と名付ける事が叶わない感覚に、指先は数ミリ下に浮き出る太い血管を
無意識になぞる。

「なあ、きっとおれのせいなんだろ、旦那」
「気付いてんじゃねぇか」
「そりゃ何となく解るさ。それにしても」

繋がって、意識を飛ばす寸前まで絞めてってさ、何かセックスみたいだよな。

この男は本当に全部解っているんじゃないだろうか、とふと考えて、ああそうか、
これは何年かけても終らない交歓なんだと突如腑に落ちた。









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