露と日

「笑える、なぁ」


酷く頭が重い。雪の床は固くて僕の周りだけ真っ赤。

あの野菜の滴るそれと即ち僕のそれは同じもので出来ている、のかも知れない

などと妙に平和ぼけした絵柄が心をじんわりと占領するので、

開きかけたキャンディの裂け目の様な腹の傷、をふいに忘れかけた。


「何が可笑しい」


痛覚なんてものはとうの昔に随分と機能を弱めたので辛くはない。

誰にも傷つけられないように、自分でそうした。

そう、君が僕の額に剣をかざす今よりも、遥か昔。


「だって、ねぇ」



･･･けれど、何でかなぁ。本当に久しぶりなの。

変な気分。

君の腹に押し付けるこの銃、もう空っぽで。

妙に平和な絵柄も、消えちゃったんだよ。


あぁ、ボルシチが食べたいなぁ。

本当は解ってる、僕と同じものなんかじゃない野菜を。


「僕が君に、負けるなんて」


あぁ、思い出した。


その雪映える剣に

僕が数え切れない弾丸を浴びせても尚、

血潮を凍らせながら戦い

冷気を喰らった瞳に揺らぐ熱は。

遥か昔の。



「･･･本当、笑える」





もう熱なんて亡くしたと思ってた、

でも、君が、引きずり出した。

だから　次には僕が、君を最後まで甚振るでしょう。

雪を喰らった瞳で止めを刺すでしょう。


その時には。






笑うのは、君だよ。














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