弥生（文）

・のほほんなお爺さんとカルプシ君

「…ん。不思議な味、だけど、美味しい」


ようやく弥生を数え、日本には春が訪れた。


二人が座る縁側には麗らかな昼の陽気が肌寒さと共に降り注いでいる。

月末の強風が去り、春の到来に目醒めたフキノトウが

遠い北国から菊の家に今さっき届いた。


「少し苦味があるので、お口に合うかどうか心配だったのですけど。

そう言って頂けて嬉しいです」


フキノトウを引き立て、かつふらりとやってきたギリシャをもてなせる調理法は。

菊は暫く考えた末、シンプルな鰹だしを葛で閉じた。



「少し苦い、けど、美味しい。こんなの、初めて」


ありがとう、キク。

すると彼は、とろりとした汁をふぅふぅと冷ましながら

鮮やかな笑みを浮かべた。

それはまるで、早咲きの桜のように晴れやかな笑顔で。


葛粉の料理は冷めにくいから、猫舌の彼が火傷しないか実は

気が気でなかったのですが。

上等の削り節をとっておいて、正解でしたね。


「キク、顔が赤い。大丈夫？」


何気無く額に伸ばされた大きな掌に、一層頬を朱に染めながら

菊はなんと幸せな春だろう、と思った。


さんざめく弥生の昼下がり。

目覚めの季節を共に待ち焦がれたフキノトウのように

縁側の二人はのんびりと寄り添う。











＝＝