朧（文）

・きゃっきゃうふふと戯れてみる中と日
・雰囲気ポエム
 

＝朧＝

 

 

黄鶴陵に猛禽が着く。

「暇、ですねぇ」
「暇、アルなぁ」

湖面に浮かぶ月見船、に
最上級の絹（シルク）を敷いて
日本と中國は身を横たえた。

「空を眺むるも良いけれど」

からりと揚がった果林糖ひとつ、
ころりと御口に放りこむ。

「見えない月は、悪いアル」

長めの髪をゆぅらと垂した中國は
盃片手に、つぃと日本を窘める。

「こら、菊！」

餡蜜の夜を邪魔しない、
爽やかな仙人の声。

「そんなに頬張っては駄目アル」
「だって美味しいのですもの」

とても、とても。

菓子の時だけ行儀が悪い、と
眉間に皺寄せ呟くも
自慢の品を旨いと破顔（わら）う
笑みが綺麗で文句もなくした。

「中國さん、これ」

わたしの姿なのでせう？

仕方無しの溜め息と共に
薄い花びら、踊る沈茶の紋様
金巻の皿に延ぶ指は
いと仕合わせに弧を描く。

「まるで共食いアル」
「あら、では」

宵空はとろりと流れ出す。

「中國さんも、食べましたよ？」

夜の雫がしたたる短髪
さらりと一房接吻落とせば、
喉の上下を自覚して
胸を焦燥（こが）すは昼のよう。

「違う、我が、欲しいのは」

酒の所業にしたくない。
身をよじる度に騒ぐ内。

「喰べたい菊は、唯一つ」

黄鶴楼の霞を呑み
刹那、猛禽が飛んだ。

湖面に浮かぶ月見船、に
最上級の絹（シルク）を敷いて

溶け合う影の密やかな逢瀬

麗しの君よ、愛してる。

 

 

 

 

 

 

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