卯月（文）

・春のリトとポー

はじまりとおわりの季節。







＝卯月＝







今年、ポーランドの庭には満開のパンジーが咲いた。

いつのことだったか。何でも用事は僕に押し付ける彼が、ひとり
見慣れない鉢を隠す風にして水を遣っていた。
わざとらしいくらい僕の関与を拒絶するものだからバレバレ
だったのだけど、黙っておくのが優しさというもの。

「ねぇ～、今日はリトにプレゼントがあるんよー」

あれから結構な日にちが。
心の部屋の隅っこに存在すら忘れていた風景は、
電話越しの声と共に色彩を帯びて記憶に去来した。

「なに？」

家路を辿るようによく知った道程に何故か切なくなる。
春は確か日本では始まりの季節だったっけ。そんな事を
ふと思い出す。
チャイムを鳴らす前に玄関で待ってるなんて珍しい。
そうして無理矢理引っ張られた庭で待っていたのは、
久しぶりに見せた満面の笑顔と、吹き渡る春の生温さと
押し付けられた鉢でほころぶのは満開のパンジー。

「エイプリルフールに驚かせてやろうと思ったし～」

あんま関係ないけどぉ、と呂律の回らない口調で初めて
彼が少し照れているのだと気付いた。


「ねぇ、」

突然の風で舞い上がったパンジーの花弁を追って
思わず見上げた空、澄んだ天盤はどうしてか
目の前の彼ばかり連想させた。

あぁ僕にとって彼はあまりにも果てしない。

色とりどりの虹色に光る花びら、に
浮かぶプラチナゴールドと

「どこにも、いかないで　よ」

胸が苦しくて、涙が出た。

行く訳ないしー、リト今日何か変～、と
不意に抱きしめた肩越しにのんびり呟く彼の声は
しかしどこか震えていた。


永遠は恐らく相容れない場所にあるのだろう。
けれどはじまりとおわりの季節に少しだけ隙間が見える。


「いくわけ、ないし」


今年、ポーランドの庭には満開のパンジーが咲いた。











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