千夜一夜（文）

・サディクさんと菊さんの告白話
・ 微エロかもしれない

 ＝千夜一夜＝









開け放たれた夏の窓。ゆるゆると進入する温く乾燥したアンカラの夜は、

まるで御伽噺のようだ。

そうして沢山の甘い酒に囲まれ、既に空いた壜から滴る雫は気化して

直接脳に響き、心を満たした。

仰ぎ見れば天蓋、敷き詰められたふかふかのクッションに身を埋めれば

トルコさんが、何やってんでぃ、とうっとりするような声で笑う。


「飲まして下さいな」

「仕様がねえなぁ、とびきり美味いやつを出してやりまさぁ」

暫くして古めいた一本をぐいと呷ると、唇の間から直接注がれる。

ふわりと喉に独特の芳香が踊って、立ち昇る甘さにくらりと瞑目する。

そうしてトルコさんの舌に絡められ、こちらも負けずと絡めて

どちらのとも識れない唾液と酒が入り混じって互いの唇を濡らした。

初めての、接吻だった。


「日本さん」

ちゅ、と音を立てて離れる。

「なんですか」

ふと顔を上げた、覚悟を決めた情熱の焔を宿した瞳に、囚われる。

「俺ぁ、今ここで貴方に言わなきゃならん事がある」

長い沈黙の中で、番の鳥の一啼きする声だけが遠く満月を横切った。

「･･･日本さん、貴方と居ると」

「はい」

「時々、妙な気分になるんでさぁ。

それが何なのか、俺ぁついぞ解らなかった。この瞬間まで」

寝台に乗り上げたトルコさんの手から、ボトルが滑り落ちる。

衝撃で跳ね返った重い硝子は音も無く頭の横に不時着して、髪の毛と

クッションを止め処なく濡らした。

「日本さん、あんたは」

両腕を、片手で頭上に一纏めにされる。

「あんまりに綺麗で、優しくて･･･魅力的だ」

あんたが、欲しい。

そうして切なげに洩らされた熱の篭る甘い吐息と、熟れた瞳に

心臓がどくんと脈打った。



まるで、千夜一夜。

甘く眩暈のする中で、再び貪るようにキスをする。

「日本さん･･･いいや、菊、俺ぁずっとこの日を夢見てたんだ」

アンカラの温く乾いた空気は熱と混じって、私達に夢の様な現を見せる。

天蓋には星座、ラク酒の海に揺蕩いながら睦み合う夜は泣きたい程に

美しく、まるで永遠に続くよう。

あぁ。


「菊、初めて出会った日から、ずっと」


掻き抱いて、融かされて、奥を許して、境目の解らなくなるまで。


「愛してる」


･･･嗚呼。

その言葉を、待っていた。


「私も、愛してます」


まるで御伽噺のように。

そうして私達は、世界中の誰よりも愛し合う

恋人同士になろう。
















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:あとがき:
どちらも酔ってません。この二人はお互いもの凄く盲目的になってから
ようやっと告白するのではないかという妄想です。
二人だけの世界に行けたらと一瞬本気で考えていればいいなと。